Nobody_Wing

朔魅&暁羽で交換日記再開

レプリカ[2009年10月04日(日)]

 純白のウェディングドレス。赤い花は心臓の上に。漆黒の髪に輝く黄石飾り。胸には青石飾り。紫石の小粒な指輪は左手の薬指に。耳には翠石の飾り。

「キミはいつでも美しいね」

 甘い声で囁く恋人。答える声はない。

「白い肌に赤い唇」

 優しく頬をなでるその指は硬く太く乾燥している。

「椿の油が良い匂いだね、それに胸元の薔薇も」

 空いている手でつやのある黒髪を梳き、黄石の飾りをそっと親指の腹で撫でた。

「…エンマッサ。こんなところにまで連れて来た私を許しておくれ」

 ガラス越しに口付けをして安置室を後にした。
 ハリバルは深いため息をつき、普段通りに眉間のしわを作る。咳払いをして息を整える。足取りは重たそうだが、表情は幾分和らいだ。

「遅かったな」
「……」
「そんなに大事か、俺の妹が…?」
「大事だ」
「俺より?」
「…嫌な事を訊くな」
「先週はチェニック、今日はエンマッサ。明日は誰を見せてくれる気だ? それとも、明日はお前とか…?」
「ジョンガン!」
「冗談だ、そう怒るな」

 少年の頃から本心は何一つ変わっていない。それはハリバルもジョンガンも同じで。何を犠牲にしたとしても、愛する者を失いたくはない。
 ただそれを守るために躊躇うことなく排除してきた。故郷も、人も、身分も、自分たちの関係も…。

「違うこと無き幸せ、叶えられないと思っていた夢の始まり。真の意味で、二人だけの世界。嬉しいものだな」
「この移住の意味を理解した上でそう言うのか」
「当たり前だ。お前はいい加減に昼間と夜間の考えを一致させろ。昨晩は悦んでいたくせに」
「…ずっと会うことも抱き合う事も出来ず、敵対関係を装っているよりは確かに幸福だ。だが、それが極端に短い事を身を以て知っている」
「短くとも一瞬でさえも幸せは幸せだ。あの亡き地ではあり得る事が無かった、シアワセだ」

 この夢の終わりをもたらす人物を、私とジョンガンは、ついこの間、裏切った。いや、計画自体は完璧に援助し、援助された。4人の女と、1人の謎めいた人物。亡き地では女性だったが、こちらで会った時には男性だった。
 彼らは必ずここに来て、ここで私たちと再会し、それ以降は二度と会う事も無いだろう。

「ハリバル?」

 ただ失いたくない。他はすべて偽物でも人形でも何でも良い、かまわない。まわりのものの全てが捨てても構わないものばかり。

「ジョンガン…」

 けれど、お前だけは、失いたくない。

 自分たちのレプリカは必要ない。共に死ぬことが目に見えているから。何より、レプリカで満足できるほどの想いでは無い。


次は「か」
放置申し訳ない
てかこれ大丈夫か?
from [Partner]

Posted at 23:49 | 緋嚢 朔魅 | この記事のURL | Clip!! | コメント(18)

キアロスクーロの戯れ[2009年06月14日(日)]


「「おはようございます」」
「おはよう」

 朝焼けが空を焦がす少し前。じきに夜明けだというのに食堂へ下りてきた双子のヴァンパイアを迎えたのは、黒衣に身を包む妙齢の魔女だ。

「今朝は早いんですね」
「これから寝るところさ」
「「不健康な」」

 顔を顰め声を揃えた双子に、お前たちがそれを言うかと、魔女は肩を揺らす。
 双子は再び声を揃えた。

「「ヴァンパイアは元々夜行性です」」
「知ってるよ、そんなこと」

 機嫌の悪さが滲む声で答えたのは魔女ではない。いつからそこにいたのか、開け放たれた扉へ凭れかかるようにして呪屋が食堂の入口に立っていた。

「おや、珍しい」
「貴女がこんな時間に起きているなんて」
「僕だって好きで起きてるわけじゃない。それに、もう寝るよ」

 その言葉どおり、呪屋は食堂へ入ることもなく踵を返す。
 双子は互いに顔を見合わせ同時に肩を竦めた。一体何をしに来たんだと、魔女も首を傾げる。

「徹夜するほど大変だったのかな…」

 新たに話へ加わったのは、厨房から現れたエルフだ。

「主語」
「え? …あぁ、仕事ですよ。し・ご・と」

 魔女の発した言葉の意図が掴めず呆けたエルフは、少し遅れてそう返す。それに得心行ったとばかりに、他の三人は頷いた。

「「今度は誰を呪ったんだか」」

 嗚呼恐ろしいと、双子は心にもないことを言いながら揃って肩を抱く。

「ここでたった一人の《真人間》だっていうのに」
「もう少し《普通》っぽくできないんですかね、」
「「彼女は」」
「大体彼女は人間としての自覚が足りないんですよ」
「放っておけば平気で食事を抜くし」
「酷い時は睡眠もろくにとらない」
「しょっちゅう厄介事を持ち込むし」
「用事がなければ部屋から出ても来ない」
「この間なんて――」

 止まらなくなってきた双子のぼやきに、魔女はふとひらめいたような顔をして手を上げた。

「なら迎え入れればいい」

 言葉と共に生まれた魔力に、双子は口を閉じ魔女の手元を注視する。
 指先を覆ってもまだ長い袖の先からちらと覗いた爪は、マニキュアで黒く艶やかに息を止めていた。

「お前たちが考える《普通の人間》を、ここに」

 手首を軸にくるりと円を描いた次の瞬間、魔女の手に一つの鍵が現れる。魔力を使って空間を抉じ開けたとは思えないほどの鮮やかな手並みに、双子だけでなくエルフまでもが目を輝かせた。

「…どうする?」

 そ知らぬ顔で魔女が笑う。
 双子は顔を見合わせるまでもなく手を伸ばした。

「「思い知らせてやりますよ」」

 それは、朝焼けが空を焦がす少し前の出来事。




次は「れ」
ポップなプロローグにしようとして撃沈

Posted at 01:09 | 舞風 暁羽 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

くりかえしみた夢のつづき[2009年03月16日(月)]

 うっすらと外が明るみ出した頃。重たい体を起こして脇に置いていた紐で髪を結い上げる。青色がかった髪を手際良く上の方で一つにまとめあげた。

「起きたか?」

 部屋の窓の外から、聞き慣れた声が掛けられる。そうは言っても、実際は口頭での会話では無くて、彼の声は頭に直接話しかけてくるものだ。

「見たら分かるでしょ、それぐらい」

 寝起きで声が多少低くなって機嫌が悪そうだが気にする程では無い。

「今日の仕事は?」

 姿を見せない相手に問い掛けて、キッチンの方に歩いて行く。生活にいる最小限のものしか無い質素な部屋。

「あるにはあるが…」

 冷蔵庫から冷えているミネラルウォーターを取り出し口を付けた。他にあるものを見れば、野菜ジュースにコーヒーゼリー、チーズ、梅干し。朝食になりそうなものがない事は分かっていたが、さすがに買い物の必要性を感じた。

「…ちと厄介だ」
「厄介?」

 テーブルに置いてあるお菓子を口に放り込み、話をしている相手を振り返る。窓だ。そこには窓しかない。カーテンがきっちりと閉められた、窓。そのカーテンに映る、影。鷲の様な、しかしそれは鷹の影であった。

「彼奴が絡んでる、らしい」

 その言葉を聞いて、身体が何より先に反応した。緊張感が全身を走り抜け、自分の部屋だと言うのに珍しく戦闘態勢に入れるまで身体が準備を済ませていた。
 無論、彼奴と呼ばれた者がここに来る事は、現段階では有り得る事では無いのだけれど…。



「やるよ、それ」

 恐怖に身を震わせながらも、その言葉を紡いだ少女は楽しそうに笑っていた。
 夢にまで見ていた旧知との再会を何年かぶりに控えたその日の朝日は、眩しくなかった。



次は「き」

Posted at 14:45 | 緋嚢 朔魅 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

いらく[2009年02月19日(木)]


 誰がそう決めたのか、その《箱》は《パンドラ》と呼ばれていた。世界に災厄を撒き散らす神々の贈り物、と。
 開けてはいけないものと誰もが知っていた。だからこそ触れられずにいた。けれど神々のいた時代から幾千の時が過ぎ、神と人が共に暮らした時代が御伽噺とされて久しくなると、その箱の冠する名の持つ意味を畏れ敬う者はいなくなってしまった。
 人々は好奇心にかられる。語り継がれた物語の通りに。

 そして箱は開かれ、災厄は撒かれた。





「その上、最後の希望まで逃がしてしまったんだから、とんだ笑い種だな」
「…そうですね」

 言葉とは裏腹に、ウトガルド・ロキの声は柔らかい響きで大気を揺らす。上機嫌なかつての主[アルジ]の傍らで、ビューレイストは彼の腕の中を盗み見た。

「私たちにとってはこの上ない僥倖でしたが」
「あぁ」

 そこには、あらゆる意味での《希望》が眠っている。ビューレイスト自身やウトガルド・ロキにとっては勿論のこと、これからの世界にとっても、《彼女》は必要不可欠な存在だ。

「二度とこの腕に抱くことはないと思っていた。だからせめて、共にいようと望んだ」
「けれど運命は歪曲しました」

 もっとも、二人には世界に希望を与える気など更々ありはしない。二人にとって重要なのは、《希望》がその役目を果たすことではないのだ。

「もう二度と、その手を放さないことです」

 その《存在》を守ることが出来るのなら、他の何を――たとえそれが世界であろうと――犠牲にしても構いはしない。

「無論だ」
「…貴方には無用の忠告でしたね」

 その一点において、二人の意見は一致していた。

「なら私は行きます。規格外な貴方と違って、この世界へ留まるには器を必要とする身なので」
「あぁ」

 だからこそ安心して離れることが出来る。互いの胸に再会を危ぶむ気持ちは微塵もなかった。

「ではまた、」

 ただただ心待ちにしている。

「「魔女の棲む森で」」

 解き放たれた希望の目覚めを。





次は「く」
さりげなくシリーズタイトルを入れてみた
(怡楽[いらく]:喜び楽しむこと)

Posted at 03:42 | 舞風 暁羽 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

小さな死、大きな生、ひとつの犠牲[2008年11月06日(木)]

 肉体的には相当な苦痛。一人分の身体に背負うには重た過ぎたものが、三つもあったのだから。
 それも今日で終わる。
 全ての苦痛から本当の身体の持主を解放し、自由にしてやる。本人が望まなかった身体には、契約したモノが残る。二人の中和を望んで二人が造り出したモノには、新たな身体を与える。
 その準備がすべて整った。

「全部のコードを一回引っ張ってみてください」
「思いっきりやっていいの?」
「はい。ちゃんと入ってれば抜けませんから」

 羊水の中に浮かぶ女と通信機器を介して言葉を交わした。白衣に身を包んだ少女が卓上の端末を操りながら幾つかの指示を送る。女はそれに素直に従い、コードが抜けないことを確かめてゆっくりと目を閉じた。

「何度か小さい電流を流していきながら段々大きくしていきます。どこかで異変が出れば止めますが、出ない場合は最大値、その身体が破壊されると予想される値を一度出して実験を中止します」
「説明はいいのよ、その辺は全てあなたに任せてあるから」
「…失敗を恐れないんですか?」

 自分がまるで被実験体だと気づいていないような口調に少女は眉根を寄せた。その声も聞こえている筈なのに、女の口元には先ほどまでと何ら変わりない微笑が浮かべられている。
 小さく溜め息を吐き、視線を女に移した。

「今から、もう一つの器を中に入れます。貴女とは別の反応が起きますから、出来たら見ないであげて下さい」
「私は分離が完全になされるまでは目を瞑っている約束なの。それ以降は見てしまうかもしれないわ」
「…まあいいですよ。あまり見て気が良いものではありませんけどね」
「でしょうね」

 少女は自分の影を見つめ、その名を呼んだ。音も無くその影から黒い姿が浮き上がってくる。それは十歳ほどの少年の背格好をしていた。顔や手などの身体の一部分と特定できる事はできるが、すべてが黒一色で、その表情は窺い知れない。ただ、少女には分かっているようだった。

「少しの間だけ、我慢してください」
「ぼくは役に立てるだけでうれしいんだよ」

 その少年の頭を一度撫で、少女は少年に指示を出した。研究室の明かりを落とし、彼が歩いて行ける道をゆっくりと羊水の入った透明な円柱型の水槽にゆっくりと近づき、そのガラスを通り抜けて中に入った。羊水の中に浮き、ほぼ中央に位置すると少女を振り返る。真黒な身体がまるで羊水に溶けだしているかのように、その身体は少しずつ端の方から消えていった。
 それを見終えて少女はボタンに指を置いた。頬を伝って落ちるものに気づかないふりをして、通信機器に言葉を吐きかけた。

「実験を、開始します」


from [The Partner]
次は「い」

Posted at 16:17 | 緋嚢 朔魅 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

WeEkEnD Of WiTcH[2008年07月06日(日)]


 見かけよりも長く生きているというのは厄介だ。なまじ――成り行きで、仕方のなかったこととはいえ――学校で学生なんてしているせいで、私の意識なんて関係なしに周囲からは《子供》として扱われる。本当は年下の先輩も、教師も皆そうだ。誰も彼もが私に《十六歳の学生》相応の接し方をしてくる。
 確かに、過度の期待を寄せられないのはありがたかった。だけど無意味な《子供扱い》は、人の愚かさを思い知らされるばかりで忌々しくもある。
 私はきっと、ここに《いるべきではない》存在だ。元々人ではないし、人であることを願ったこともないのだから、いつ強制的に人の世から排除されようと文句は言えない。言わない。でも心のどこかで人を羨ましく思ってもいる。
 このささやかな憧憬を、一握りの人間が犯す愚にもつかない《大人主張》に穢されたくはなかった。

「あるじさま、おじかんですよ」
「…先に行っててくれるかい?」
「はい」

 よって、必要に迫れれた私は結論付ける。

「私はもう少しここにいるよ」

 人は、付かず離れず眺めているのが丁度いいのだ。





 私を《あるじさま》と呼ぶ少女が校舎に消えて暫くすると、午後の講義の始まりを告げる鐘が鳴り、残っていた何人かの生徒も中庭から姿を消す。比較的隅の方で寛ぐ私は誰に見咎められることなく、その後中庭を通りかかった教授にも気付かれず穏やかな午後に浸った。
 だが、平穏というのは総じて儚いものだ。

「ヘニル、起きてる?」

 うとうととしていた所に声をかけられ、私は内心不機嫌になりながら目を開ける。俯いていたせいで視界に入った影は短く、後は伸びるばかりだろうが、夜へ溶けるにはまだ時間がかかりそうだ。

「ヘニル?」
「……起きてるよ…」

 少し、寝ぼけていたのかもしれない。

「頼みたいことがあるの」

 夜明け前、世界を包む霧の匂いがした。夜明けどころか夜さえ遠い今、そんなものあるはずがないのに。

「…君か」
「漸くお目覚め?」

 嗚呼、やはり私は寝ぼけていたのだ。ついさっき、私の目の前で微笑む少女が現れた時から、この場は《夜明け前》となっていたのに。

「私に頼みだって? 珍しいじゃないか」
「陛下からの勅命を受けたんだけど、一人で行くなって釘を刺されちゃって」
「騎士なら事足りているだろうに」
「生憎、黒猫は留守なの」
「それはまた珍しい」

 《白い黄昏》を纏う少女は、その言葉の通り黒い愛猫を連れてはいなかった。けれど、目に見える存在に頼らなければならないほど、彼女を守る存在は生半可な力の持ち主ではない。媒体たる猫は単なる威嚇と牽制だ。

「週末、付き合ってくれない?」

 自身も高名な《魔術師》である彼女に、そんなことがわからないはずもない。

「喜んで」

 必要とされることは心地良かった。高慢で自尊心ばかり強い神々とは違って、人は手を取り合うことの意義を知っている。
 私たちは、望まれた時にだけ力を揮っていればいい。想いは届くのだと人が信じられるよう、心を砕いていればいい。

「君の《騎士役》が出来るなんて光栄だ」

 だから私はここにいる。付かず離れず、居心地のいい距離を探してまどろみながら、いつだって望まれることを心待ちにしていた。

「貴方は立派な騎士よ、ヘニル」

 そしていつか、この証明の先、君が微笑んでくれることを願い続けている。




次は「ち」

Posted at 18:10 | 舞風 暁羽 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

雨模様[2008年05月25日(日)]


「今日はよく降るなあ」

 アニランの呟きは静かな部屋の空気を少し振るわせただけで終わった。
 部屋にいるのは二人だけれど、一人は眠っている。

「……会いたいねえ、オウシ…?」

 皆と別れた日も、確かこんな風に激しい雨が降っていた。

 イリュウとエイキは多分今も二人でいて。
 エジはまた悪さでもして牢にでも繋がれているだろう。
 あの子は……。

「名前、聞き忘れたなあ…」

 見かけない子がいて驚いたのは、確かアタシとエジの二人。
 オウシは知っていたみたいで、エイキに頷いていた。

 向かいのソファで眠るオウシを見ていると自分にも眠気が襲ってきたみたいだ。

「明日は、晴れるかなあ…?」



 約束の日は、来年の明日。
 少しでも平和に暮らせることを祈って目を閉じた。


from [The Partner chap.2]
(書けたらいいな)
次は「う」

Posted at 10:25 | 緋嚢 朔魅 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

メランコリア[2008年04月26日(土)]


 光はなかった。ただ闇が広がっていた。それが世界のあるべき姿だと考えることにしていた。光はない。必要ない。だから私は闇に抱かれて今日も眠る。長い眠りと短い覚醒を繰り返していた。他にすることもない。いつか変化があるのではないかという期待は初めからなかった。こうなる前に絶望と共に閉ざされていたのだ、私の世界は。
 嗚呼何故、私たちでなければならなかったのか。何故、引き離されなければならなかったのか。何故、あの時手を離してしまったのか。
 愛する人の名さえ奪われ、私は何故生きてる。私が私を《私》と認識できない《真名の檻》の中で、私が個であり続ける意味がどこにある。
 傲慢な神々が欲したのは《器》であったはずだ。入れ物に心は必要ない。ならば何故、私はまだ思考している。
 嗚呼、誰か私を消してくれ。そうして永劫続くこの苦しみか解き放ってはくれないか。愛する人の名さえ思い出すことも叶わない無力な私に、僅かでも心動かされたのなら、どうか。

 私を私でなくしてはくれまいか。





次は「あ」
最近の俺

Posted at 23:29 | 舞風 暁羽 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

通り雨[2008年03月25日(火)]

 明け方
 滅多に車の通らない田舎の道路に一人
 突っ立って空を見上げた
 今にも雨が降り出しそうな濃灰色の空
 鳶が二羽いる
 姿を現さない太陽
 遠くで汽笛が鳴った
 始まりがいつだったかなんて覚えてない
 ただ自分を殺しに来る奴等を散らす
 それだけしてきた
 重金属が立てる音がして四方に整然と並ぶ戦車
 低空飛行で近付いて旋回している回転翼の飛行機
 低い男の声が叫ばれて
 一斉に銃口がこっちに向けられる
 数なんて知れないけれど少なくはないと思う
 始めはちゃんと話をしようって近付いて来てくれたのに
 それから何日も経って
 動けなくなってしまったから話す事は無理だと思われたんだろうか
 一応まだ出来るんだけどな
 また低い男の声がすれば
 戦車が音を立てて砲口をこっちに向けた
 久しぶりに首を垂れて地面を見る
 大地は屍に埋め尽くされたから見えないけれど
 干涸びてゆくヒトだったモノ達から奇妙な植物は確かに見える
 穴と言う孔から伸び始める赤黒い腸のような蔓
 骨に張り付いた肉片を突き抜けて空を目指すモノもあって
 実に滑稽だ
 自分の生み出したモノとは分かっていても
 愛情は芽生えない
 形容しがたい爆音が幾つも轟いて
 灰色の煙が空に昇ってゆく
 此処に届く前に全ての鉄の塊は周りの植物の糧になる
 更なる糧を求めて
 植物は周りを取り囲むヒト達に自分達の分泌液を飛ばす
 白い煙が灰色の煙よりも多くなって
 新しい芽が生えてゆく
 拡がる赤黒い蔓は空を目指して糧を求めて

『やっぱりお前は馬鹿だな』

 懐かしい声がしたと思えば
 それは天から降って来るもので

「貴女にだけは言われたくないんですが?」

 累々と積み重なる屍の上に降り立って
 昔と変わらない笑顔をこっちに向けた

『しかしデカくなったものだな』
「あれから五年は経ちましたからね」
『短いものだな』
「長くは無かったですよ」

 久しぶりに会話をする相手が
 貴女でよかったよ
 普通のヒトなら武器をこっちに構えてるから

「何用でこちらに?」
『大した用事じゃないさ。単なる暇潰しに』
「…墓荒らしの噂でも聞き付けましたか」
『お前と言い彼奴と言い…』
「彼女と僕を同じにしないで下さい」

 自分の周りを柵状に成って囲む植物に手を当てれば大木の幹が倒れるような音がして視界が開ける
 笑みを浮かべたままの来訪者に向かい合う

『此奴等はどうするんだ?』
「…どうするも何も…」
『枯らすのか』
「そうですねえ…。まあどっちみち僕が此処を離れれば死んでしまいますからね」

 片足を上げて
 もう一本も上げて
 前に踏み出す
 溜まった水が栓を抜かれて一瞬に消えゆくように
 赤黒い蔓達は大地に還ってゆく
 白骨の隙間を器用に進んでいった

「実験の終わりは、自分で決めかねていましたから…」
『…お前は本当に馬鹿だな』

 鼻で笑ってみせて
 小さな機械を放られる
 その懐かしい通信器機を耳に付ければ
 聞こえるだろうと思っていた
 その予想通り変わらない声がした

〔相変わらず戯言が多いな〕

 生温い風が身体に纏わりついて
 この辺り一帯にある不要物を大地に還す雨が降り始めた
 空を見上げると
 色調転換して姿を空と同色にしていた巨大な空艦がその黒色を露にして降下して来る
 その艦の真下以外に降り注ぐ雨が溶かした
 吐き気を催す臭いが鼻孔を掠めだした


次は「め」

Posted at 16:42 | 緋嚢 朔魅 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

随従者の戯事[2008年02月17日(日)]


 初めてその姿を目にした時は、本当に魔族の子供かと思った。そんなものがヨトォンヘイムにいるはずはないのだけれど、そのくらい、彼女は人間離れした魔力を有していたから。

「どこで拾ってきたの? それ」

 当然といえば当然の問いかけにも答えずに、貴方はただ彼女を傍に置いた。食事を与え、力の使い方を教え、剣の相手をし、それまでの根無し草が嘘のように住処を決めて。
 単なる気紛れだと思っていた貴方の周囲がざわつきだしたのも丁度その頃。以前とはどこか変わってしまった貴方を嘆いて何人もの同族が彼女を狙い、ある時は貴方、ある時は――信じがたいことだけど――狙われた彼女自身の手にかかり命を落とした。


 そうして誰もが、彼女が《特別な存在》であることに気付いた。


 私が本当の意味で彼女と出会ったのはそれから何年も経ってからのことだけど、あの日のことは今でも忘れられない。
 何百年かに一度、退屈を持て余してやってくる貴方のお兄様が彼女に目をつけて、貴方が留守の間に彼女を攫い、あまつさえ貴方を足止めするために罠を仕掛けた。《真名》によって編まれた切れるはずのない鎖を引きちぎってまで彼女の元に駆けつけた貴方は満身創痍で、そんな貴方に貴方のお兄様は初めて敗北する。
 リーヴと、彼女は貴方をそう呼んでいた。そしていつの間にか貴方の真名はすり変わっていたのね。本来真名であったはずの名は意味消失し、彼女が呼ぶリーヴという名だけが、貴方を縛る鎖となった。
 それはとても恐ろしいことだとあの時の私は思ったけれど、今はとても素晴らしいことだとも思えるようになったのよ。だって貴方たちの純粋で不器用な気持ちは、アースガルズの神をも退けたのだから。
 なのに貴方は彼女を手放してしまった。本当の意味で手放してしまったわけではないけれど、それまで一緒にいることが当然だったのに、易々と手の届かないところへ送ってしまった。

 彼女が本来いるべき世界、ミズガルズへと。

 彼女は泣きも喚きもせず、ただ貴方の言葉を受け入れてヨトォンヘイムを去った。でも私は知っているの。彼女は魔法陣に入ってから一度だって貴方から目を逸らしはしなかった。ただひたすらに、貴方だけを見つめていたのよ。
 彼女がいなくなってからの貴方はまるで抜け殻のようで、誰もが貴方の過ちを悟ったわ。なのに誰も、何も言わなかったのは、貴方の気持ちも十分に理解できたから。
 貴方の傍にいたから彼女は狙われた。同じ巨人族相手なら貴方も彼女を守ることができるけれど、相手が神だとしたら結果は分からない。貴方は確実に彼女を守りたかったのよ。だからなるべく危険から遠ざけようとした。危険、つまり貴方自身から。
 本当に愚かなことよ。貴方を慕う巨人族の誰もが貴方の隣に彼女がいることを暗黙の内に認めていたのに。貴方が一声かければ、きっと多くの同族が彼女のために力を揮ったはずよ。私たちは神を恐れたりはしないのだから。


『ウトガルド・ロキは死んだ!』


 そしてついに貴方は我慢できなくなって、彼女の後を追うようにヨトォンヘイムから姿を消した。私たちは声を上げて笑ったわ。そんなに心配なら初めから手放さなければよかったのにと、なんの嘲りも含めずに。
 残されたのは貴方を殺した気でいる若造と、彼女を知らない若輩と、貴方を慕う私たち、灰色の空。
 見守りましょう、いつまでも。貴方がもう少し《大人》になって、私たちに気付くまで。この灰色の空の下で祈りましょう、貴方と彼女がいつまでも一緒にいられるように。それまでは偽りの王の下で暮らしましょう。ですが心は貴方とともに。





 我等の王よ。





「魔女の棲む森」より巨人族の女・ノスリヴァルディ
次は「と」

Posted at 17:36 | 舞風 暁羽 | この記事のURL | Clip!! | コメント(0)

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